マエストロ文学

第三章:行末

「どこへいくんだい?」

狂った世界だ。

そう感じつつも訊かずにはいられなかった。
既に彼はこの世界に魅せられてしまったようだ。

「…」

ヒロディは立ち止まり、
ゆっくりとこちらに振り向いた。

その顔からは(クマなので当然)
感情は読み取れなかったが、

その(クマなので当然)厳つい表情は
彼の浮き足立った興奮を鎮めるには十分だった。



「お前は?」

「え?」

「どこに行きたい?」



彼はその質問の意味を推し量ってみる。
しかし、彼の国語力ではそれ以上の含意を汲めなかった。

だから、


「……わ、わからないでしゅ…」


か細い声でそう答えるしかなかった。
もはや彼の冒険心は喪失してしまった。

ヒロディはまた背を向け、歩き出す。
慌てて彼もその巨体を追いかける。


「それで、どこに行くんだい?」









「……湯沢。」
ヒロディは答えた。



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