マエストロ文学

終章U:よって題意は満たされた



「どういうことなんだ?」


彼は聞いた


彼女は彼を見つめ
沈黙が流れた


「一番最後の記憶を覚えている?」


彼は思い出そうと努力した


気が付けば森にいて
ヒロディにつれられて
湯沢へと向かった


それしか思い出せない

しかし
それなのか?
それが本当に最後の記憶なのか?


彼は
目を閉じた


もう一度思い出そうとする


しかし彼の頭は
枯渇した泉のように
いくら考えても何も出なかった




「それは本当にあなたの最後の記憶。
…その前の記憶はあなたには存在しないの」




……存在しない……?




「あなたの目の前を見て」


彼はもう一度食い入るようにして見た


泣き叫ぶ女性


天地が裂けそうな声だった




誰なのか
全く分からない








「それはあなたの母、そして父となるもの」









彼は
呆然とした



母なのに、父なのに
なぜ分からないのだろう



もし夢だったなら


言うまでもなくわかったのに



どうして……


彼は考えた
そして、
彼女は言った




「あなたは今から生まれる。そして」





「…待ってくれ」
彼は大声で叫んだ
「……じゃあなんで俺はヒロディに会ってっ…」


「今まであなたが見たのは生命のすべて。誕生から終焉まで。私が見せたの」
遮るように彼女は言った。続ける。

「あなたはいずれ死ぬということが分かったはず。
自分が自分じゃなくなるというのがどういうことか分かったでしょ。」

「それが、生命の終焉?」

「そんなのは人それぞれ。けれど、あなたは必ずそう死ぬ。
しかも死は一番楽しい時に訪れるの。生きるということはこういうことなの。
生きていても辛いことしかないの。人は本当にひどい生き物なの。世間は残酷なの。」

彼は黙るしかなかった。彼女は続ける。

「だけど生きるの?あなたはいずれ死ぬということが分かっているのに…
それでも生きたいの??」


彼は下を見た。叫び声が擦れてきている。
白衣の男から焦りの表情が見える。



彼は
思い出せること全部
思い出した




馬鹿みたいないい世界じゃないか





彼はそう思った
そして決めた。


「…けど俺は生きたい」
彼は言った

彼女は顔を少ししかめた




「俺は、こんな世界でも生きたいよ」




彼女は深いため息をついて
そして少し微笑んで


「うらやましい」


そういった。

そしてすぐに
その表情を隠すようにして
信じられないくらいの笑顔でこう言った。


「目を閉じて10数えて。そしたらあなたは生まれる」


「その前に待って。君は…?」
彼は言った。





「……私は『死』なの」



「あなたのように選択するときに生まれないことを選んだ哀れな子供」



天使のような微笑みの
彼女は言った。



沈黙が流れて、そして続けた



「さぁ、目を閉じて10数えて。ヒロディが迎えにくるわ。
彼は実は誕生の妖精なの」


「君はどうするの?」


「あと数十年後に迎えに来るわ」


彼女は微笑んだ。

彼は苦笑して目を閉じた。





イチ






ニイ






サン





シイ





ゴオ






ロク






ナナ









ハチ






キュウ









「…楽しんでね」

















一筋の光が
彼を呼び戻した

転がる目覚まし時計に
窓際のかわいがってるサボテン
水槽の中のベタ






見たことある




外に出れば





俺は生まれるんだ




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