マエストロ文学

第十一章:積分

そこには少女が立っていた。

非の打ち所のない少女が。

彼女を見ようと、彼は一歩近づいた。

不意に…



強烈な違和感が彼を襲った。



何かが違う。


しかし、どこかで見たことはあった。

あれは…



暗い部屋。

周囲の完全な静寂の中、脳裏に焼きついた映像。


と同時に、甘いぬかるみにはまっていくような感情。

自己嫌悪と自己満足が混濁した、不思議な色…



そのようなものが彼の思考を完全に支配した。



「こっち」


彼女はまた話しかける。



気づいた。



これは…

声ではない。




さっきの演奏。


ヒロディの歌声の裏で流れていた…



キーボードの音色だ。



全て合点がいった。


その瞬間。


少女の違和感が徐々に薄れていった。


そして、自分の中でも何かが変わっていくのを感じた。


何か、厚みのようなものが…





そして、少女は彼に話しかける。

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