読み切り・短編

猫のおくりもの
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モダンな雰囲気の、こじゃれた喫茶店。
だが、今の彼にとってそれはどうでもよく…というより、はっきり言ってそれどころじゃあなかった。
雰囲気を楽しむ余裕など、まるで皆無だったのだ。
「み〜ずしまセンセ♪新しいお話、出来ましたか?」
目の前にはなかなかの美女。だがその声には楽しげな中にも何とも言えない威圧が含まれていて…
「あぅ…」
思わず縮こまったのが一応、この物語の主人公となる、若手作家の水島響介だ。
彼は今、担当の松原茜と打ち合わせ中。
「あら?なんですかその反応?おかしいですね、本当ならもう、とっくにだいたいの形になっているハズなんですけど〜?」
笑顔だが徐々にその含まれたものも高まり、響介を追い詰めていく。
「ご、ごめんなさい…」
「なんで謝るんです?先生ならもちろん、とっくの昔に素晴らし〜いお話を考えて、私を驚かせてくれると…あらぁ?真っ白…これは一体何ですか?」
だが、彼は答えない。ずっと俯いたまま、気まずそうに黙り込んでいる。
そこで茜はポンと手を打ち、
「あ、そうか。出来たものを隠しているんですね?まさか先生に限って、まだ出来てません、だなんて言うはずがありませんもの。」
「………まだ出来てません。」
消え入りそうな声に、
「え?なんです?聞こえませんよ〜☆」
容赦ない担当様。
「うぅ、いっそ殺して下さい…」
「うふっ、あはははは☆」
茜さん、目が笑ってません。
ひとしきりいじめた後、彼女は溜め息をついて、
「…ふぅ。どうしちゃったの?響介君らしくないじゃない。」
これが素の喋り方らしい。響介もおそるおそる視線を上げて、
「…すみません。どうしても納得いくものが出来なくて。」
ようやく顔を見せた童顔の青年は、申し訳なさそうに言う。
「ふぅん…まぁ、いいケド。時間はたっぷりあるから。」
「へ?」
茜はまたにっこりと笑って、
「響介君が奇跡とかなんかいって突然物語やら設定を閃いて、驚異のスピードで書き上げてくれれば間に合うから♪」
そんな事を、さらりと言う。
「えぇっ!?む、無理ですよ、そんな…」
しかし彼女は立ち上がり、すたすたと歩いて行ってしまう。
そして、コーヒー代を支払うと、「それじゃ響介君、頑張ってねぇ♪お姉さん、応援してるから☆」
「あぁっ、ちょっ!?茜さ…」
扉が閉まり、残されたのは軽やかなベルの音と、
「…行っちゃった…」
茫然と立ち尽くす響介だけだった。
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