『竜剣』のお部屋

7〜古城に哭く声〜
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遠い昔、ひとつの国が歴史から姿を消した。

その国は自らの欲のために強力な術法を編み出し、竜達の住む里を攻め滅ぼしたのだが…

結局、強力過ぎる力を扱いきれず、それは自らに跳ね返ってきたのだ。



魔術が暴走し、一夜のうちに城は瓦礫と化した。
それは、自業自得とも言える、あっけない幕引だった。




…と、こう伝えられているのだが…

歴史の真実は、その当人達しか知らないものなのだ。



「…でさ、その城のあった辺りは今でも廃墟なんだけど……出るんだよ。」
おどろおどろした口調で、宿屋の主人は語る。
「出る…って、何がですか?」
雫姫はビクビクしながら尋ねる。
恐怖に強張っているが、好奇心には勝てないらしい。
すると主人は一拍の間をおいて、
「魔術師の亡霊が、ね…」
一層声を低くして、言った。
「夜になると魔術の研究施設があったらしい地下から不気味な声が響くんだ……だからいまだに誰もその辺りには手をつけない。つけられないんだ。」
「どっ…どうして、です?」
よせばいいのに彼女は潤んだ目でさらに問う。
「土地を荒そうものなら、呪われるからさ……亡霊にね…」

ポン。

「きゃあ!?」

突然肩を叩かれ、雫姫は小さく悲鳴をあげた。
「!! …どうした、雫姫?」
蒼真も驚いたようで、思わずその手を引っ込めた。
「あはは、ごめんごめん。ついからかっちゃった。」
宿屋の主人は普段の、陽気な雰囲気に変わった。
「おっさん…雫姫に何を?」
「古城跡の亡霊…ちょっとした怪談だよ。雫姫ちゃんの反応が可愛くてさ〜」
手をひらひらとさせ、申し訳なさそうに笑う。
気はいいのだが、いかんせんお調子者な主人を蒼真は一瞥し、溜め息をつく。
「そ、蒼真…どうしました?」
縮こまって震えながら、雫姫は彼を見上げた。
「…今日も仕事なんだが…この様子じゃあ留守番だな。」
「え…」
その言葉を聞いて、弾かれたように立ち上がる。
「嫌です! 私も連れて行って下さい!!」
さっきまでの姿はどこへやら、すっかり元気になった彼女に、
「それは構わねぇが…お前、大丈夫か?」
「大丈夫です! 足手纏いにはなりませんから!!」
「……今回行くのはその古城跡なんだが。」
ぴたり、と雫姫の勢いが止まった。
「…やっぱり、留守番してるか?」
一瞬涙目になるが、ぶんぶんと左右に首を振ると、
「いえ…行かせて下さい!」
こうなれば、何を言っても無駄だろう。
「…行くか。」
「ちゃんと守ってやるんだぞ〜?」
店を出ようとする背中に、からかいの混じった声がかけられた。
「言われるまでもねぇよ。」
バタン、とドアが閉まった。
「いやいや〜若いっていいねぇ♪」
実際は蒼真の方が遥かに年上なのだが…
そんな事は知る由もない主人は、呑気に笑っていた。
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