『竜剣』のお部屋

12〜暗雲〜
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かつて、『魔剣』と呼ばれた剣。

強大過ぎる力故に長年持ち手を得る事なく、力の暴走によって命を落とした者は数知れず。


そんな魔剣は今、少女の姿となって生きている。

生まれ落ちたばかりの心は純粋で無垢。

そしてそれはあまりにも多くを…世界を知らない。



「蒼真! あれは何ですか?」
彼女のこの言葉も、何度目だろう。
黒曜の瞳をキラキラさせ、その視線の方向に出来た人だかりには、二人の少年少女がいた。
「なんでやねーん!」
「甘いぞ。カウンター激烈豪昇龍!」
はりせんを繰り出す少年に、すかさず少女は動きを合わせて攻撃を返す。
「ってオレつっこみなのに殴られグハァッ!?」
少年が倒れ込むと、周りで観ていた者達からドッと笑いが起こる。
二人が殴り合っているのに、何故。
少女…雫姫にはそれが不思議でしょうがないらしい。
「あぁ、あれは一種の芸だ。」
「芸?」
「ああやって笑いを取るんだよ。」
苦笑混じりに蒼真が説明すると、雫姫は考え込む。
"そういう物"として認識するには、少し時間がかかるようだ。
(こんなに懸命になって…)
永い間暗い遺跡の最奥部で、魔剣として深い闇を見つめてきた雫姫。
それが今、明るい陽の下でさまざまな物に触れ、いきいきとそれを取り入れている。
微笑ましい彼女の姿に、蒼真はどこかしんみりした気持ちにならずにはいられなかった。
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