▼短編
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−気持ちは直接口頭で−


夏休み。
世間一般はこの長期休みをそう呼ぶ。
ああ、なんて良い言葉なんだろう。
受験真っ只中の土方にとってこれ以上に羨ましがる事はなかった。


「あー…あちぃ」
「コンコン、多串君にお届けものですけどドア蹴破って良いですか?」

ズガンッ!

「…って、開けろというまえに蹴破ってんじゃねーよ!ていうか多串って誰だよ!!」
「まあまあ、本当にお届けものなんだからさ。」
「問題はそこじゃねェェ!何をどう考えればドアは蹴破るもんになるんだよ!お前何回目だ!?あ?数えきれねーじゃねーか!」

と、一通り言えば取り敢えず蹴破られた机を壁に立て掛け、小さく溜め息をつくと土方はその銀時を座布団に座るよう促した。
対して銀時はというと平然とにこにこしながら座布団に座った。
蹴破ったせいで足が痛くないのかとかいうものは問題視しないことにしよう。

「…で?何がお届けものなんだよ。」
「ん?あ、そうそう。なんかさー、俺の仕事なんでも屋じゃん?だから変な仕事も来るわけでさ。それで今回来た仕事がコ・レ」
「?」


そういって銀時は土方に手渡したものは一通の手紙であった。
なんで俺宛てなんだよ。
知り合いなら直接俺に送るか渡せば良いだろうに。
疑問視しながらも封筒を鋏で丁寧に開け、中に入っていた一枚の紙を取り出した。


「…と、確かに渡したからな。まいどありがとーございましたー」
「は!?ってそれ俺の昼飯!…ったく」

銀時は自分の仕事は此処までというように立ち上がり机に置いてあった、土方の昼飯であろう握り飯を手に取り足早に部屋をあとにした。


***

『土方様

初めてこんなお手紙を書きました。
いつもは言わないことを言うんで黙って聞いて下さい

貴方の事は以前からお慕いしていました。
こんなこといきなり言われても困りますか?
貴方のその瞳孔が開ききった目がとても好きです。
マヨネーズとか気持ち悪い位かけてるところは殺したくなるくらい好きです。
ああ、貴方を想う度に心が跳びはねるように強く鼓動します。
今すぐにでも貴方の側に行きたいわ。

I love you』



「……ソウゴだな」
この気持ち悪い位の言い回し。
時々苛々させる台詞。
なにがI love youだ。気持ち悪い。
「……こんなん書いてる暇あるんなら直接会いにこいよな」


ソウゴと会ってからもう2週間。
こっちから連絡取ればよかったものの、一応受験の身なため極力連絡はとらないようにしていた。向こうも向こうで部活やらなんやらで忙しいというのを風の噂で聞いていたから余計にしにくい。

それが今日、手紙なんていう現代の若者には珍しい手段で連絡をよこしてくるではないか(内容はもう問題視しないことにしよう)。
土方は手紙を見つめ小さく溜め息を吐き、携帯を取り出し差出人に電話をかけた。



『オレオレ詐欺なら間に合ってます』
「ベタなボケに付き合ってる暇はねーよ。」
『ああ、土方さんでしたか。』
「着信の名前見れば誰だかわかるだろうが。そんなことより、手紙なんか坂田に渡さなくとも直接俺に送ってくれば良いだろうが」
『あー、俺土方さんの住所知らないんで。家をしってても住所まで知ってる人間なんざストーカーか律儀に年賀状送るやつ位ですぜ』
「あー、わかったわかった。で?なんの用だよ。」



本当は手紙なんぞで言わなくてもよかった。
ましてやあんなふざけた内容。俺が素直に土方さんに愛してるとか言う訳がない。言うわけはないが、言われたい。
そういって矛盾な考えで書いた手紙。
メールや電話であの人に自分から連絡とるのが悔しかった。
忙しいのは知っていた。沖田自身も一応剣道部の部長になってからは全国大会に向けての練習にヘトヘトになる毎日だったのだ。

たまたま通り掛かった本屋で立ち読みしていたあいつに会った。
坂田はジャンプ片手に苺ミルクの飴を舐めているのか匂いを漂よわせていた。
坂田の気持ちを知っていた俺は小さく舌打ちするもわざと隣に立ち小さく咳ばらいをし坂田を見上げた。

「あれー?沖田君じゃん。なに、自分土方君とラブラブ中なんじゃないの?」
「…あんたの方が会ってるんだろ。」
「しょうがないよー。家隣なんだもん。あ、昨日土方君また告白されてたよ?最近の流行りはマヨ男なのかねー」

俺が付き合ってるはずなのになんでこの男はこんなにも余裕なのだろうか。
もしかしてまだ自分にはチャンスがあるんだと思っているんだろうか。


「で?何か俺に用?」
「…あんたは土方さんをまだ」
「あー、なしなし。そういうの俺もうなんとも思ってないからね。人のものとるほど困ってないからね」
「じゃあなんでそう俺に要らない情報言ってくるんですか」
「んー…必死そうだから?」

そういった坂田の顔が俺を見下しているように見えるのは、気のせいか?そこまで自分には余裕が無いのだろうか。
会って安心したい。きっと坂田とは毎日会ってるんだろう。
毎日会いたいのは俺だってそうなのに…

素直に言えば良いじゃないか。
メールでもなんでも「会いたい」「大好き」だと。
実際俺は土方さんにそういったものを言った事がなかった。



黙り込む沖田の頭をぽんぽんと軽く叩いた坂田は視線が合うとニィと微笑んだ。
「手紙でも書けば?俺、持ってってあげるよ」



頭を触れられいい気分がしない沖田はキッと睨み上げるも相手の表情に嘘偽りはないと感じた俺は小さく頷いた。


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